生きる(仮)

DIE FROM LOVE

推しの友だち

プロ野球界の上下関係がどれほど厳しくてどれほどゆるいのか いまだによくわからないのはわたしの推しが山田哲人だからかもしれない
彼は初対面の読売ジャイアンツ・坂本内野手(4歳年上)に飲み物を買いに行かせようとした大物なので……

同じ球団の先輩たちも「あいつは僕のことを先輩と思っていない」と口をそろえる コミュニケーション能力に長けているというよりはひたすらに人懐こい山田さん
自分に優しく関わってくれる人間はみんな等しく友だちなのかもしれない
山田さんのことを3年間見てきて 彼のまわりの人間関係や それらの関係がどういうふうに構築されてきたのか見えてきた そのなかで
彼にとっていちばんの友だちが谷内さんであることもなんとなくわかっていた



引退後のトークイベントで谷内さんのことを「哲人の友だち」と表現したのがかの今浪隆博御大である(ツイッターのレポで見た)
もしかしたら揶揄のニュアンスもあったのだろうか 実際の映像を見ていないからわからないが その表現になにか腑に落ちるものを感じたわたしにとって谷内さんはまぎれもなく「山田さんの友だち」だった
ふたりの関係性はカップルのようとかいろんな言われ方をしていて それらに比べると「友だち」は軽い表現のようにも思えるが
でも仕事の同僚と友だちになるのって難しくない?ましてや先輩だよ

わたしが山田さんを知ったころから もっと言うとその何年も前から谷内さんは山田さんの友だちだった
彼が贔屓球団の選手のひとりにほかならなかったにもかかわらず 谷内さんにまつわる記憶の多くに山田さんが付随しているのは そこによる部分が大きいと思う
山田さんが嬉々として「谷内さんは僕の精神安定剤」と語っていたこと 「愛の4-6-3」と呼ばれた3年前の山田さんのグラブトス 去年の春季キャンプでのふたりの特守 今年の山田さんの誕生日に勝ち越しタイムリーを打った谷内さんのこと
谷内さんが誕生日に欠かさずアップしていた 山田さんとのツーショット写真
さらに現地で試合を見ると 谷内さんが1軍にいるときふたりは必ず連れ添って球場入りし ウォーミングアップ中には顔を見合わせて笑い 時には帰りまでいっしょなのだ
山田さんを見ようと思うと否が応でも谷内さんが視界に入ってくる 誇張抜きで……

甘えっぱなしでクソ生意気な山田さんと(年上であるにもかかわらず)対等になかよくしてくれるのだから谷内さんが悪い人なわけがない
実際谷内さんはチームメイトからも「いい人」と称されていた いい人でもなかなか「いい人」って言われることないよね どんだけいい人だよ
それは言動やエピソードのひとつひとつからも察し取れることだった 谷内さんあなたはひたすらいい人 しかも真面目で努力家で顔もいい
ヤクルトファンで谷内さんのことを嫌いな人なんているのだろうかとも思うが



山田さんをこじらせているところのわたしはどうしてもこういう思いがちらつくことがあった アホらし~!(^_^;)
まさか本気で敵と見なしていたわけではあるまいが あんまり山田さんとなかよしなので 谷内さんのことはむしろ距離をとって見てしまうフシがあった
そのせいでわたしにとっては 最初から最後までずっと「推しの友だち」のままだった谷内さん

でもいつか「やちやまだ」でお立ち台に上ってほしかったな 山田さんのうれしそうな顔が見たかった



正直今度トレードがあるとしたら谷内さんかもしれないなとは思っていた いまさらなにを言っても後出しジャンケンでしかないが
どうしてもタイミングがちぐはぐだった そのせいでチャンスに恵まれなかった よく言われるのは好調時に死球をぶつけられた2016年の春のことでも それ以外にも見ていてやきもきする瞬間はあった
そうこうしているうちに内野は飽和気味になってきて
しかしその未来を想像しようとするとどうしても「その場合山田さんはどうなるの?」という問題にぶち当たってしまう ぶち当たるたびに考えることをやめていた

実際に報道を見たとき 驚いたのは秋吉さんのほうだった(いやだれが秋吉さんがトレードの駒になると思った!?寝耳に水すぎたわ トレードとはそういうものだとわかっていても)
谷内さんに関してもまったく驚かなかったと言えば嘘になるが なにより山田さんのことが心配だった 案の定というかなんというか
今生の別れでないことはわかっているこれからも連絡は取り合うだろうし 最低でも年に3試合は直接対決がある 自主トレも変わらずいっしょにやるのだろうか
でもいつもすぐそばにいた人間が突然北海道へ行ってしまうのだ その心境を思うと悲しくて仕方がなかったし
できるならば最後まで見ないで済ませたい未来だったな



ところでヤクルトの公式アプリには選手が50の質問に答えるというコンテンツがある ファン感のクイズコーナーの出題元になったコンテンツですね
去年そのコンテンツで谷内さんが 好きな男性芸能人に「星野源」 マイブームに「マカロン」と答えているのを見て
えっなに……君はサブカル・オタクなのか……?と胸がざわついた 少しだけシンパシーも感じた 当方も星野源とマカロンが好きなオタクです
これがわたしのなかの数少ない 山田さんが紐づいてこない谷内さんにまつわる記憶
こんなささいなことをなぜか覚えていてなぜかこのタイミングで思い出してしまった

もしかしたら 「推しの友だち」以外の谷内さんのこともちゃんと知りたかったのかもしれない
悲しいのも「山田さんが悲しいだろうから」というだけではないのかもしれない
そう気がついたときに あ~惜しいことをしたなと思った 泣いても笑ってももう東京ヤクルトスワローズの谷内さんはいないのだ

でも谷内さんが日ハムのユニフォームを着ることで わたしがいままでよりずっと谷内さんのことをしっかり見られるようになるのだとしたら
そしてこのトレードが谷内さんにとってチャンスになるのだとしたら
それでいいのだ悲しいけど 悲しいけどそれ以上のことはないから これからもというか これから応援するよ 秋吉さんとそれから杉浦さんのこともいっしょに応援している
わたしも例に漏れず谷内さんのことが好きだったし これからも好きなんだな 憎らしいことはあっても



この記事を書いているいま現在山田さんに関する心配はまったく晴れていない あの人もいい大人だし割り切れるものだと思いたいが
それはそれとしてこちらが憎らしくなるくらいこれからもずっと友だちでいてほしいなとも思う 身勝手な願いですが
物理的な距離はあれでも……「仕事の同僚」じゃなくなることで ただただふつうの友だちになったふたりが
オープン戦や交流戦やあるいは日本シリーズで再会したとき 叶わなかったお立ち台とはまた趣の違う うれしそうな顔が見られるのなら
それもやっぱりいいと思うよ わたしはそれをクソ~!と笑いながら見ます